財団設立のねらい
初代会長
廣池 千太郎(ひろいけ せんたろう)
1922~1989
世界は今や原子力時代に入り、人類社会はますます発展の途上にあります。ところが、やがて21世紀を迎えようとする時にあたって、その繁栄の裏に幾多の深刻な問題が生じてきていることは、識者の等しく憂うるところであります。 ことに、世界的な富の不均衡と偏在する過剰人口は、解決困難な諸問題を惹起しつつあり、とりわけ発展途上国においては、それが国民経済を圧迫し、貧困をもたらす大きな要因となっております。 こうした中において、私どもは、つとに世界人類の安心、平和、幸福を念願して、道徳科学を創設し、全世界に向かって精神的改革を呼びかけた学祖廣池千九郎博士の意志にもとづいて、財団法人道徳科学研究所ならびに学校法人廣池学園を設置し、道徳科学を根幹とする社会教育、学校教育を広く展開し、微力ながら今日まで、国家ならびに世界の平和をめざして努力してまいりました。
しかし今日、深刻な政治的、経済的諸問題と取り組む発展途上国の姿を見るとき、今やそれらの諸国に対して愛の手をさしのべることは、幸福と繁栄を享受しているわが国日本の果たすべき当然の義務というべきでありましょう。
もちろんこれら諸国の真の復興は、決して一朝にしてなりうるものではなく、また物量の多少によってもたらされるものではありません。それは、真の人類愛の精神を体得した人々の、献身的努力によってのみ可能であると確信しております。
私どもは、そういう考え方を基本にして、本来の目的である精神の改革とともに、さらに具体的な救済策をもって、これらの発展途上国同朋の向上に尽力することを決意したのであります。そこで、私どもが最初に手がけたのが、ラオス王国ビエンチャンの農場建設であります。これは、昭和39年頃から現地調査ならびに農場視察をすすめるかたわら、逐次、数名の技術指導員と資材を送って、ラオス人カンバイ氏の所有する農場(100ヘクタール)の桑園造成に着手、以来今日まで、精神面、技術面において着実に実績をあげ、現地の人はもとよりわが国の政・財界の各位からも賞賛を受けるに至りました。
ことに、前海外経済協力基金総裁・柳田誠二郎氏、アジア会館理事長・岩田喜雄氏などは、その成果を高く評価され、財団設立の必要性を提起されました。 また国立教育研究所所長・平塚益徳氏も現地農場を訪問され、この種の努力こそ実物教育として発展途上国を自力で立ち上がらせる原動力である、と報告されています。
こうした各界の方々の理解あるご助言、ご協力によって、私どもはこの事業をさらに一段と強力に推進することこそ両法人の目的である世界平和と人類の幸福実現への道であるとの確信を得るとともに、今後は、組織的、計画的な施策にもとづいて、特に発展途上国の産業の開発に寄与すべく、ここに財団を設立するに至った次第であります。
なにとぞ、心ある識者におかれましては、私どもの真意をご賢察くださいまして、今後とも絶大なご協力を賜わりますよう、厚くお願い申し上げます。
(1971年記)